マンハッタン・ジャズ・クインテット・トリビア・コラム[5]
〜音によるホラー演出が秀逸、映画「ISOLA 多重人格少女」〜
スピルバーグが弱冠25歳で撮ったTVムービー「激突」では、トラック運転手に命を狙われるドライバーの心理状態を、最後までトラック運転手の姿をあらわさないことで、緊迫感あふれる恐怖の演出がなされ見事だった。
恐怖の対象をみせないことで恐怖を増幅させる演出は、スピルバーグは映画「ジョーズ」でも多用され、ショック描写の多くは、サメは実際にみえない、もしくは部分だけ見せるといった視覚表現であった。またジョン・ウィリアムズのあまりにも有名になったテーマ曲は、視覚表現に頼らずとも恐怖を演出する十分すぎるぐらいの威力があった。
2000年に公開された、映画「ISOLA 多重人格少女」は、貴志祐介による傑作ホラー小説「十三番目の人格 ISOLA」の映画化作品であるが、音楽を担当したデビット・マシューズにも、ジョン・ウィリアムズを彷彿とさせる音の演出が光っていた。
ストーリーは、人の感情を読みとる能力を持つ由香里(木村佳乃)が、阪神大震災後の神戸でカウンセリングのボランティアにしていたときに、12人の人格を持つ多重人格者の千尋(黒澤優)というひとりの少女に出会う。カウンセリングを続けていく内に、彼女の回りに頻発する自殺事件に否応なく気が付いていくが、人を殺すことをためらわない13番目の悪魔の人格“ISOLA(イソラ)”の存在が明らかになる。
阪神淡路大震災を舞台にした物語をオーケストラとコーラスを交えてドラマチックな音で演出するところはデビット・マシューズの真骨頂である。重厚で、ストリングスを前面に出してシリアスドラマの音を作っているところが秀逸なのだ。
|